「俺は園沢トウミ。冬の海って書きます。センパイ、名前は?」

「幸田……アキラ」 
 
 無意識に、名前を忘れないようにと心で繰り返す。

 園沢、冬海。

 冬海は、あたしの顔をじっと見たまま黙っていた。

「な、なに?」

「センパイ、キレイな人だね」

 口が半開きになった。なになになに! なんて言ったの今!

 そのあたしの反応を見てなのか、ちょっと困ったような顔で笑う。

 冬海はするっと立ち上がった。しゃがんでいたあたしも立ち上がる。

「じゃーねコウダセンパイ。また縁があったら」

 そんなに高くはない身長。制服を叩いて草を払う。そして、あたしに手をヒラヒラ振りながら、帰っていった。

 呆然。へんな人。
 中学生が? 寝不足だったからって、見学しに来た高校の花壇で寝てるとか。

 ……バカなの?

「そのざわ、とうみ」

 声に出してみた。ドキドキした。
 美少年。そういう形容が一番合うんだと思う。ピンク色の椿の下で、見つけた。

 分かってた。もう既に心奪われてしまっている事。

 その時からあたしは、彼の迷宮に迷い込んでしまったんだ。