驚いた顔をして、こっちを見ている。一緒に居た人達もこっちを見ている。

 冬海は走ってくる車を避けながら、道路を渡ってこっちに来る。

 危ないよ、良いよこっちに来なくても。あたしがそっちに行くのに。

「せ、センパ……」

 少し息を切らして、目の前まで来てくれた。

 冬海だった。ヘルメットを取ると、短くした髪がグチャグチャになっていた。


「い、居なくなるから……黙って行くから……」

「センパイ、なんで」

「勝手に決めてさ、居なくなるし! あたしまだ冬海のこと、す」

 道路をダンプが走って行く。大きな音で、自分の声すら聞こえない。



「……ごめん」
 
 冬海が何て言ったかもよく聞き取れなかった。

 分かったのは、埃っぽい作業服が、あたしを包んだこと。力強く、抱き寄せられたこと。



「ごめんセンパイ……会いたかった」

 冬海の肩越し、空が見えた。


 涙で歪んだけど、とてもとても、抜けるように青かった。



「いい加減、センパイって呼ぶのやめてよ。もうセンパイじゃないよ」


 白黒だった空。

 絵の具を流したみたいに、とても青かった。


 背中に手を回すと、夢じゃなくて、ここに冬海が居た。それだけで、じゅうぶんだった。