月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

「幸田さん、ティッシュあげようか?」

 隣に並んでいた生徒会の子が、小さく声をかけてきた。

「あ……大丈夫。ありがと」

 大粒の涙が頬を伝うのを分からなくて、床を見て自分が泣いているのに気付く。仰げば尊しも、蛍の光も、先輩達を送り出すためのものではなく、あたしの中では違うところを刺激するものでしかなかった。

 冬海は、この高校の卒業式すら出られないんだから。送り出されることもなく、ひっそりと辞めていった冬海。
 だから、体育館の隅で泣いていた。

「卒業生、退場」

 司会がそう言うと、卒業生が立ち上がり、拍手に包まれながら一列で退場していく。あたしも拍手をする。

 マミ先輩が見え、眼鏡を少し治す仕草をしていた。きっと泣いている。気付かれないように。

 しばらく行くと、今度は中尾先輩が歩いてきた。

 目を赤くして、彼も泣いているようだ。眼鏡を取って涙を拭いていた。

 生徒会長をやって、思い入れも思い出もきっとたくさんあるだろう。人気もあったし、モテた。