月光レプリカ -不完全な、ふたつの-



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 忙しくしていれば、少しは気が晴れた。生徒会で卒業式の準備に携わっていたからだった。
 帰りが遅くなって、1人で帰る時はさすがに気持ちが沈んでしまうけど、それでも一時だけでも、冬海のことを忘れていられたから。

 卒業式当日は、生徒会として役員の仕事に没頭し、式の最中もやることがたくさんあって、バタバタしていた。


 同級生の、生徒会長を引き継いだ男子生徒は、送辞をするということで「緊張するよ……どうしよう……」と落ち着かないのを見て、励まして、あたしもシンクロして緊張してしまっていた。そんな彼の送辞を体育館の隅で聞いている。

 がんばれ! 生徒会の仲間もそう思っているはずだ。


「先輩がた、ご卒業、 おめでとうございます。いま先輩がたは、胸に希望と夢を抱いて……」


 さすがに生徒会長をやるだけはあって、淀みなく話しているけれど、声が震えている。

 もう少しだよー! がんばれー!


 そういえば、去年の入学式の時は、同じところから新入生を見ていたっけ。

 見つけたんだ。真新しい制服に身を包んみ、ずらっと並んだ新入生の中に、冬海を。

 そこだけ浮かび上がってるみたいだったんだ。



 消そうと思ったって、消えないんだよ。

 初めて会った時の気持ちだって、繋いだ手の温もりだって、キスした時の熱だって。消えてはいかないんだよ。

 思い出の中の2人は、消えていかない。消えない。