月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

「そうか。ちょっと……ショッキングなことかもしれんが」

 坊主先生は、あたしにそう言う。

「はい、大丈夫です」

 言葉を選んでいるようだ。静かな空間が、ぴりっと張りつめる。


「彼、どうやら性的な乱暴も受けているようだ。酒も飲んでいたし、そっちの方が気になるが……」

「……」


 それは、予想していたことだった。冬海がお酒を飲んでいただろうということも、なんとなく気づいていたし。売春の事実を知るのはあたしだけ。あまり驚かないあたしを、みんなはどう思っただろう。

 余計なことを言わないようにしようと思うと、言葉が出てこない。何て言えば良いのか……。

「……あ、あたし……」

「先生、ここは付き添いはできるんでしょうか?」

 消え入りそうなあたしの言葉を遮ったのは、吉永先生。付き添い?

「え? ああ……かまわんよ。例外だから外に言わないように」

「分かっています。ありがとうございます」

 付き添い……冬海と一緒に居られるのか。

「さ、行こう幸田」

 吉永先生が促して、あたし達は冬海が居る病室へと案内された。

 自動販売機のジーッという音が、あたしの背中を追ってくるように聞こえた。