月光レプリカ -不完全な、ふたつの-


 泥だらけで血の付いた長袖トレーナーを掴んで「ちょっと我慢して」とお腹の所をなるべく優しくまくり上げた。



「……」

 下唇を噛む。
 引っ掻き傷に血が滲んで、所々赤黒くなって……殴られたのだと何となく分かる。

 脇腹、背中も刺激を与えないように見た。白い肌のあちこちに赤い傷。


 リンチ。そんな言葉が頭に浮かぶ。


「……俺……ごめん」

「喋らなくていいから。いま吉永先生も来るよ」

「今日……ボコられちゃってさぁ、参ったよ……」

 喋らないで。

「バイト、あったから」

「傷に障るから黙って」

「ホテル、行ったら」

「やめて!」

 そう、それしか考えられないから、聞きたくなかったのに。原因は分からないけど客の大人にされたんだろう。こんな傷だらけにされて、立って歩けないくらいに。

 ホテルで。広くはない部屋で。こんなにボコボコにされて。

 切れてしまっている唇に濡らしたタオルをあてがう。白いタオルが赤くなった。