月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 1階の端……通路に入った時だった。

 冬海の部屋の前に黒い塊が。足を止める。なんだあれ? 少し近づくと、それが人だってことが分かった。ぎょっとしたけど、良く見るとドアにもたれて座っている……?


「冬海!!」

 ドアにもたれていたのは冬海だった。駆け寄ると、肩で息をしてるようで、暗くて顔がよく見えなかった。

「冬海!」

 ドアを開けようとして力尽きたのか、下に鍵とケータイが落ちている。「しっかりして……」と体を起こそうとした。

「……センパイ……ごめん」

「いいから、とにかく中に入ろう」

 鍵を拾い、鍵穴に差し込んで開ける。

 冬海のケータイも取り上げてポケットに入れて、よろよろと立ちあがった冬海を支えながら部屋に入った。電気のスイッチはどこだ。

 冬海の顔がすぐ近くにある。ふっと匂いが鼻をかすめた。酒臭い……もしかして冬海、お酒飲んでるの……?


「どうしたの? どっか具合悪いの?」

 床に冬海を転がして、部屋の電気を点けた。部屋が明るくなる。鞄を放り投げ、冬海の元に戻ると、一瞬呼吸が止まった。

「と……冬海……!」

 血だらけだったから。

 目の下が切れて血が頬まで流れ、口の端も切れて紫色になっている。

 服が所々破れて、それにも血が付いていて……。