月光レプリカ -不完全な、ふたつの-


「やっぱ、早く帰った方がいいね。俺、センパイと駅で別れたらあと帰るわ」


 本当に、帰るだろうか。

 帰るって言ってそのまま、また……。白いセダンが頭をよぎる。



「……やだ」

「え?」


 やっぱり、だめだ。一緒に居ると疑ってしまう。だけど、行って欲しくない。


「いい、大丈夫だから……帰らなくても」

 階段を降りて、狭い道を歩く。冬海は足を止めて、あたしと繋いだ手に力を入れてきた。 



「……良かった」

 冬海が言った。

「なんか、センパイに避けられてると思ってたから」

 曇りのある笑顔はあたしへ真っ直ぐ向けられた。目をそらしたい。

「朝、待ってるって言ったのにいつもの電車で来ないし。避けられてるなーこれって思って」

 その勘は当たってるんだけどね。

 思ってたって冬海は言うけど、もう確信として感じてるんじゃないかな。たぶん。あたしが感じてるよりも冬海は頭が良いと思う。

「やべーなって、嫌われたかなーみたいな」

 アハハっていう笑い声も混ざって、自嘲気味に言う。あたしは、笑えなかった。

 結果として避けるようになってしまって。朝だって、会いたくなかった。

 冬海、あなたの後をつけたりしたんだ、あたし。