月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

「あ! センパイこそ走って大丈夫だった?!」

 今更だなぁ。けっこう走ってきたけど。

 あたしはおかしくなって思わず笑ってしまった。「あ、なんだよ」と冬海は口を尖らす。

「大丈夫。具合悪くて早退したんじゃないし」

「……そっか」

 ふんわりと笑顔になる冬海。あたしの手をまた握って歩き出す。こんな時間に制服で、手を繋いで。

 お願いだからちょっと気を使って欲しいんだけど……まぁ、でもいいか……。

 階段を2人で並んで降りる。コンクリートの急な階段は湿っていた。所々にある水溜りは小さく光っている。少し太陽が出てきたようだ。


「あ、マック寄って帰る? この間行けなかったし」

 ああ、そういえばそうだった。その後、あの白い車でどこか行ったみたいだけど。

「何言ってんの。この時間はちょっとまずいでしょう。誰か学校に通報するかもしれないし……」

「センパイも心配性だなぁ。意外と平気なんだって」

 まるで、サボりを何度もしているような台詞だね。あたしが知らない間に。



「……」

 あたし……疑いながら冬海の話を聞いている。



 ……大人相手に、体、売ってるんでしょ? 「あいつは、大人に買われて……」

 マミ先輩の言葉が、耳元で響いた。



「……どうした? センパイ。具合悪いの?」

 目の前に、冬海の顔。のぞき込むようにして、あたしを見ている。

「熱ある? 顔赤いけど」

 手を額に当てられそうになって、あたしは顔を背けてしまった。

 反射的で、背けてしまってから、しまった、と思った。