月光レプリカ -不完全な、ふたつの-



 具合が悪いわけじゃなかったけど、結局、あたしは早退を申し出て昼休みに帰ることにした。

 下駄箱のところまで来ると、ケータイが鳴った。


「……あ」

 冬海だった。少し迷って、電話に出た。



「もしもし」

「センパイ?」

「うん」

「今朝、会えなかったけど学校来てんの?」


 冬海も今は学校に居るみたいだ。というかそれが普通なんだけど。


「うん。でも、ちょっと大事を取って帰ることにしたんだ。いま学校出るとこ」

「うそ」


 冬海の電話口がざわついている。廊下にでも居るんだろうか。

 あまり目立つところで電話をしていると、ケータイを没収されてしまう。


「俺も帰る! そこで待ってて!」

「えっ! ちょ、冬海」


 ツーツー。電話が切れてしまった。待っててってここで? 冬海も帰るって、サボりじゃないか!



「なんで来るの……」

 ああ。気付かれないうちに帰ってしまえば良かった。電話に出なければ良かったよ。

 後悔しながら、後ろめたいというかでもちょっと嬉しいような、でも気分は良くない。