月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 あっと思って視線を外す。

 先輩があまりに普通で、まるで忘れていた。そうだった。

 冬海とのキスを見られていたんだ。図書室で。

「す、すみません……先輩。あの……」

 しどろもどろになるあたしを、中尾先輩がじっと見つめる。メガネの奥の視線が怖い。



「……ごめんなさい。本当に」

 静まり返る保健室。空気が圧し掛かってくるようだ。外から聞こえる音も無く、閉じ込められたみたいに。

「あの人と……つき合ってて、だから……先輩とは、つき」

「考え直したら」


 言葉に割って入ってきた中尾先輩の声は、あたしの喉に綿を詰め込んだ。考え直せ……?

 イライラしているように、中尾先輩は短く息を吐く。


「なんで、あんなのと」

 あ、あんなの……? 冬海のことそんな風に。……やめて。すっと、背筋に針が当たったみたいに感じた。

「幸田さんに、触るのなんて許せないよ。あんなの見せられて、平気なわけない。汚い手で……」

 白い夏掛けの上に置いたあたしの手。自分のじゃないみたい。きゅっと握って、力を入れてみた。