月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 リアガラスにはカーテンがあるようで、後ろからもよく見えない。

 まったく。どんだけ隠してるんだよ。あたしはイライラしていた。いつでも降りられるように、料金メーターを見ながらお金を握りしめる。

 手が震える。お札を握りしめた手がふるふると震えてる。

 あたし、これでいいの? 窓の外を過ぎる景色を見ていて、急に怖くなってきてしまった。

 冬海を乗せた車はまだ停まる様子は見せない。再び信号待ち。タクシーのエンジン音が心臓をなおさら揺さぶる。

 どうしよう。なんだか怖い。

 自分で知ろうとして、こんなことをしているくせに。勢いつけて出てきたくせに。学校サボってまで。


「……」

 信号が変わり、発進する。座席に押し付けられる感じが、よりいっそう、不安にさせる。怖い。

 また右に曲がって。あたしの腰はシートから少し浮いていた。もうだめ、降りよう。


「……あの、すいませんここで」

「あ、停まるみたいだよ。どうします?」

「えっ」


 白いセダンはハザードを点けて停まった。

「どうします? 降りる?」

 どう答えて良いのか分からず居ると、運転手さんが「ちょっと先で曲がるから」と言って、白いセダンを追い越した。すぐ先の角を曲がって停車する。

「あ、ありがとうございま……」

「千円でいいから。気を付けて、早く帰りなよ」

 あたしが何をしてるか、分かってるかのような口調で運転手さんは言う。あたしはモタモタと千円札を一枚取り出して、渡した。

 早く降りなくちゃ。あたしはお礼を言ってタクシーを降りた。すぐにタクシーは行ってしまう。

 薄暗いビルの通りだった。

 さっき曲がってきた角まで行って、建物に体を隠し、覗いてみた。白いセダンの助手席ドアが開いている。


 冬海が乗っているはず。

 降りてくるんだろうか。手をぎゅっと握りしめる。汗が滲んでいた。