月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 あまり冬海と離れてしまうと、分からなくなりそうだったから、姿が見えるところで後を追うことにした。といっても、ここは駅前。このまま駅へ冬海が向かえば、そこであたしの仕事は終わり。

 冬海は横断歩道で信号待ちをしている。このまま駅へと入っていくんだろうか……。


 信号が青に変わった。冬海が足早に横断歩道を渡る。

 駅前ロータリーをぐるりと回って駅に入る地形だった。今日に限って客待ちタクシーが、夕方のラッシュに備えてなのか、それとも時間的にヒマなのか、ずらりと並んでいた。

 タクシーに隠れて冬海が時折見えなくなる。見失わないように注意しながら、あたしも青信号点滅でギリギリの横断歩道を渡った。駅前の植え込みにしゃがみ込んだ。誰かあたしを見ているかもしれない。あきらかに怪しいだろう。

 分かってるけど、だって仕方ないんだよ!

 駅に向かっているもんだと思っていた冬海だったけど、ふいに立ち止まって、タクシーの合間に見えなくなった。

 あれ? どうしたんだろう。どこ行った? 駅?

 すると、タクシーの列の向こうから1台の車が走っていく。タクシーに乗り込んだのではなかった。

 あたしはタクシーに隠れるように屈む。車がすぐ側を通ったから。

 助手席に冬海の姿を見つけたし、その走っていく車を見るのがこれで3回目だったから。

 またあの白い車。

 たぶん運転しているのは、あの女性なんだ。ちょっと角度的によく見えなかったけど。

 あたしは体を起こして、急いでタクシー列の一番前に走る。

 ドアが開いたので、乗り込んだ。


「はい、どちらまで?」

「すいません、あれ、あの白い車を追って欲しいんですけど!」

「え?」

「お願いします!」


 お金は持ってきた。2万円くらいは財布に入っている。それだけあれば充分だと思った。

 乗ったタクシーの運転手さんが、追いかけるのを断らないでくれて、ラッキーだった。

「お姉ちゃん、ちゃんと掴まってて」

 なんかこれ、テレビで見たことがある。こんなシーン。

 まだ暗くなるには早い時間だったけど、どんどん薄暗くなって行くだろう。気付けば雨が上がっていた。

 大通りを通って、何回か角を曲がる。信号待ちで後ろに着いた時には心臓がバクバク鳴った。

 後部座席に乗ったあたしは、助手席シートに隠れて、冬海の乗った白いセダンを後ろからにらみつける。


 どこへ行くんだろう。