月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 部屋着を脱いで、Tシャツを着た。その上に、あまり目立たないようなカーディガンを羽織る。雨が降ってるから、もしかしたら寒いかもしれない。長袖だった。

 髪の毛を三つ編みおさげした。いつもならこんな風にしないんだけど。そして、買ったけどあまり被らないでいたキャスケット。スキニージーンズ。

 涙がじわっと目に熱く出てきたけど、我慢した。泣いてる場合じゃないから。


 お気に入りの、フラットな水色パンプスを履いて、外に出る。降っていた雨は、小降りになっていたけど、傘をささないと濡れるから。少し邪魔なんだけどな。

 道路には誰も居なかった。車も通っていない。平日のこの時間だと、人通りも少ないだろうから。あたしは、駅へ向かって歩き出した。



 駅前まで来ると、さすがに人が居る。今帰ってきた人、今から出かける人、色々。

 あたしはキャスケットをぐいっと深めに被って、改札口へ足早に向かった。

 電車内は傘を持つ人達がちらほら乗っていた。たたんだ傘が邪魔。駅まで早歩きで来たから、息が上がる。目立たないように深呼吸をする。

 電車内はすごくジメジメしていた。梅雨の時期特有の、この感じ。気持ちまでベタベタする。外は雨だし、仕方がない。

 いつも向かう方向だけど、へんな感じ。平日のこんな時間に電車に乗ることが無いし。


 いくつか駅に停車して、そして次であたしは電車を降りた。

 いつもなら学校に行くために降りる駅。この時間ならまだ、下校生徒と会うことも無いだろうから。

 1時間くらいは時間を潰さないといけない。

 コンビニ寄ったり、DVDやCDのレンタルショップに行ったりしようか。駅の待合室でもいいけど、少し目立つかもしれないから避けたい。


 時間を潰し、下校時間のあたりになったら駅に戻ってこよう。そして、冬海を探すんだ。


 まだ少し、雨が降り続いていた。