月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

「あたしの友達が見たんだもの。車で送られてきてホテルに入って……」

 耳を疑う言葉がすらすらとマミ先輩の口から出てくる。

「2時間くらいしてから、出てきたって。園沢冬海が。また迎えの車に乗って」

 頭の血が、すうっと下がる感じがした。足下から崩れ去りそうな。

「……学校に、いられなくなるんじゃない?」

 遠くに聞こえていた部活動の生徒の声なんかが、CDのボリュームをしぼったみたいに遠のいた。両方の耳を塞がれてるみたいに。

 ふっと鼻で笑って、マミ先輩はゆっくり角を曲がって行ってしまった。

 いま、何を言われた? マミ先輩、何て言った? 頭の中の整理がつかない。



 冬海が、体を売ってる……売春?


 どういうこと? なんでマミ先輩がそんなことを知ってるの……?
 

 鞄を抱いた腕が冷たくなってくる。

「おとな。 あいて に、体 を …」

 マミ先輩の言葉が、あたしの中でバラバラになってしまう。
 
 どういうこと? 何が起こってるの? 人形みたいに整った顔で笑う冬海の顔が浮かぶ。冬海、なにをしてるの……?


 校舎にかすかに響いてくる生徒達の声や物音は、明るくて楽しそうで夕陽と同じオレンジ色なのに、あたしは動けなくて、心音だけがドクドクと鳴っていた。

「う、そ」

 うそでしょう?

 制服のポケットにあるケータイを探る。かけようとした。冬海、いま何をしてるの? 学校休んで、何やってるの? もしかしてまた、あの車で……。

 発信してみた。恐る恐る耳に当てると、聞こえてくるのはコール。しばらく鳴らしても、冬海は電話に出ない。

「なに、してんの……?」

 コールはずっと鳴ってる。そして、留守電に切り替わった。あたしは、電話を切る。