月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

「中尾くんに嫌われていけばいいわ。このままずっと」

 声色がすっと、低くなった。恐怖で体が固まる。

 なんなのこの人。なんでこんなにあたしにきつく当たるの。

 中尾先輩のことは悪いと思ってるけど、マミ先輩には関係無い。中尾先輩を好きなことと、それと冬海のことはマミ先輩に関係無いじゃない。


「サイテーな彼氏……」


 冬海のことを言ってる? あたしはカチンと来たどころじゃなくて、一瞬にして頭に血が上った。

 サイテーってなに。

「なんですか、ひとの彼氏を悪く言わないでください……!」

「サイテーだからサイテーって言ってんの。サイテーなバイトしてるそうね」

 バイト……? なんで冬海のバイトのことをマミ先輩が知ってるの? あたしも知らないのに。サイテーってどういうこと。

 意味が分からないあたしは、記憶とマミ先輩の言葉と冬海との今までのことを一生懸命に頭で分析した。

 この人、何言ってるの?

「あなた、知っててつき合ってるの?」

「?」

 なんだ? なんのこと? マミ先輩が何を言ってるのか本当に分からない。

 あたしは思わず先輩の方に向きを変えた。メガネのショートカット。冷たい印象はいつもと変わらない。