月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 昇降口に向かおうと振り向いた。

 なんか、今日はよくバッタリと知ってる人に会う日なのかもしれない。しかも今度は最悪だ。


「幸田さん、お疲れ様」

「……お疲れ様です……」


 マミ先輩だった。思わず構えた。メガネの奥の目が怖い。

「生徒会室、行かないの? もうみんな集まってると思うけど」

 方向転換しているのを、後ろから見ていたに違いない。帰ろうとしていたところを見ていたんでしょう?

「今日……ちょっと具合が悪くて……帰ります……」

 鞄を胸にぎゅうっと抱いて、マミ先輩を通り越して行こうとした。

「幸田さん、1年生とつき合ってるんだってね」

 周りには誰も居なかったけど、遠くから部活動をする生徒とかの声。そういう音が周りを囲み、あたし達が廊下で話す声などここだけにしか聞こえない。

 マミ先輩、冬海とのことを知ってる……中尾先輩からだろうか。

「……」

「中尾くんにちゃんと返事しないで、よくつき合えるわね。思ったより軽いね。幸田さんて」

 ……やっぱり、中尾先輩から聞いたんだ。

「あたしにとっちゃどうでも良いことだけど。あなたが誰とつき合おうが。中尾くん以外だったら」

「……だったら、ほっといて貰えませんか」

 べつにあたし、軽い女なんかじゃない。

 言われっぱなしであたしも黙っていたくなかった。抱いた鞄に手汗がぬるつく。

 背中からマミ先輩の声を浴びて、気持ちが悪い。