月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 食べ物の匂いが教室に充満している。あたしは持ってきたおにぎりとパンのうちおにぎりだけ食べて、あとは鞄に仕舞う。冬海に会ったらあげれば良いし、帰ってから食べても良い。

 なんか疲れてんね、か。光のこともあって、冬海のこと、中尾先輩のこと。色々あって、なんか脳みそパンクしそう。

 放課後、生徒会室へ行く前に、冬海のクラスを覗いてみようかな……。

 お腹に食べ物が入って、午後の授業は漏れなく眠たくなる。昨夜は寝る前に冬海にメールをしたけど返信は無くて。別に返信が無くても良いんだけど、やっぱりあの車に乗って行ってしまったことを思い出すと、心配になる。


 どこへ行ったんだろう。何をしているんだろう。冬海は。

 食べたおにぎりが、なんだか胃で石にでもなったような感じがした。

 昼休みの後の授業は、ずっと集中できなくて、ほとんど聞いていなかった。聞いていても頭に入っていない。

 外は曇り空。午後の授業で体育をやってるクラスが、校庭を走っている。どこのクラスか学年も分からなかったけど、冬海はそこには居なかった。

 黒板の前で先生がこの世のものとは思えぬ難しい言葉を話す。要するに英語の授業なんだけど、もう本当に集中できないからノートも真っ白、頭も真っ白。分かるのは右手のシャープペンと頬杖をついた左頬の感覚だけ。

 冬海は何をしてるんだろう。何の授業なんだろう。

 もう、さっきからそればっかり。あたし、冬海のことばっかり。