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昼休み、トイレからの帰りに教室への廊下を歩いていたら、生徒の間から吉永先生が見えた。向こうもあたしに気付く。
「お、幸田。ちょっといいか」
「え、は、い」
まさか声をかけられると思ってなかったから挙動不審になってしまう。なんだろう。
昼休みを思い思いに過ごす生徒達が、吉永先生に挨拶したり、笑いあったりしている。「おーもうマンガ本持ってくんなよ、あれ貰ったからな」とか男子生徒に言っている。
廊下の端っこに寄れ、という指示に従う。
「園沢とどうだ、仲良くやってっか?」
吉永先生は手を口に添えて、小声で聞いてきた。なんてことを聞くんだ、教師が!
「え、まあ……」
「なにそのうまく行ってませんみたいな反応。いっちょうまえに喧嘩でもしたのか」
子供扱い全開なんですけど……。
「そういうんじゃないですけど。色々あるんですよー高校生の恋愛は」
あたしも負けじとそんな風に返した。
「なるほどな。まぁそうだな」
こうやってると忘れてしまうけど、そういえば吉永先生ってナマハゲみたいだったんだよな。ボサボサ頭で。ナマハゲって言ってもハゲてはないけど。
「園沢、あいつ最近よく休むんだけど、体でも悪いのか。お前知ってるか?」
「え、そうなんですか?」
そうなんですかなんて聞いたけど、前にも冬海のクラスメイトが教えてくれた。休んでる、連絡は無いけどって。



