月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 距離的に聞こえるはずが無かった。あたしは改札口の内側でその白いセダンをじっと目で追いかけた。

 あたしの心臓は、大きく打った。

 一瞬だけ、見えたから。冬海が乗った助手席の窓は開いていて、その隣の運転席には、やっぱりあの女の人が乗っていたから。

 ホームに着いた電車から人が大勢出てきて、改札口へ向かってくる。その波の先頭にあたしは突き飛ばされそうになって、また階段のほうへ行く。仕方なく、またホームへ戻った。


 冬海、一体何をしてるの? 何を隠してるの。


 再び、ホームからロータリーを見下ろす。

 あの白い車はとっくにどこへか走り去っていて、風はぬるく、そして雨はあがっていた。