学校を出てから、しばらく歩いていると、ケータイの着信音。冬海のだった。制服のポケットから取り出して、ケータイを開く。

「……チッ」

 画面を見た冬海が、すごく小さく舌打ちをした。誰からだろう?

「はい」

 むこうを向く形で、冬海は電話に出た。なんかちょっとムッとした感じだ。友達なのか、知り合いなのか。あたしは無意味に自分のケータイを取り出した。特に着信もメールも無かったけど。

「……はい……わかりました」

 昨日もちょっと遅かったし、今日は早く帰ろうかなって思ってたけど、マック寄って帰るなら遅くなっちゃうかもな。

 よく遅くなるので、お母さんはもう「遅いんだったら先に夕飯食べちゃうから」とか言うようになった。生徒会なのか、友達と居るのか、彼氏でもできたのかとか思ってるかも。中学の時、友哉とつき合ってた時も「彼氏居るんでしょ」って聞かれた時があった。鋭い母には勝てない。

「ごめんセンパイ。俺……帰らなきゃなんねー」

「え」

 突然そんなことを言われたので、あたしは足を止めてしまう。え、なんで?

「駅まで一緒に帰るから、今日はごめん。ちょっと用事……」

「友達?」

「……いや」

 わかりました、って敬語を使っていたのを聞いていたから、友達じゃないのはなんとなく分かってたけど、じゃあ誰だろう。先輩かな。

「……わかった」

 問い詰めても仕方ない。ポケットにケータイをしまって、冬海が歩き出す。あたしはそれに付いていく。

「……明日、明日マック寄って帰ろ」

 ぱっと振り向いて冬海が言う。別にどうしてもマック寄って帰りたいわけじゃないんだけどな。

「あーでも明日は生徒会あるんだけど……」

 そう返事をすると、冬海の顔が曇る。生徒会というキーワードにくっ付いてくる、中尾先輩の姿。

「そんなのいつでも寄って帰れるでしょ。ね、行こう」

 あたしは明るく言った。

 一気に明日の生徒会に行きたくなくなったけど、別に明日で終わりじゃないし、また一緒に帰る時に寄って帰ればいい。というか、別にマックじゃなくても。

 雨は少しだけ弱くなっている。ピチャピチャという2人の足音は会話の伴奏みたいで、少しだけ寂しかった。