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 生徒会室の鍵は閉まっている。今日は特に集まりも無いし予定なんか無かった。中尾先輩のクラスに行くわけにもいかないし、今日はとりあえず生徒会室に行ってみようと思った。会えなかったら、別な方法を考えればいい。

「……」

 鍵が閉まっているから入れない。中で待つとかできない。どうしようか……そう思って廊下を見る。

 ずっと向こうを見たら、見覚えのあるシルエット。「うわどうしよう」思わずそう口から出た。生徒会室は鍵がかかってるし、今日は中尾先輩に会えない。会えないから帰ろうってちょっとほっとしていたのは事実だったから。廊下の向こうからこっちに歩いてきているのはまさに、中尾先輩だった。じっとりと手のひらに汗が出てきた。

 あたしに気付くだろうか。中尾先輩は視線を落とし、眉間にシワを寄せてゆっくり歩いている。あたしは、中尾先輩がこっちに気付いて声をかけてくれることを期待した。だから、チラチラと彼の方を見ては、生徒会室のドアノブに視線を戻す。上靴の音が近付く。あたしはまた先輩の方を見た。その時、視線が合う。中尾先輩はハッとしたような表情。

「先輩……」

 そう声をかけた瞬間。ぐっと目つきが変わって、いつも優しい中尾先輩からは想像できないような怖い目で睨まれた。

「あのっ」

 あたしは、そのショックと冬海とのことを話さなければいけないという気持ちで、とりあえずの言葉を出す。手のひらの汗はますます出るのに、喉はカラカラに乾いていた。中尾先輩はあたしを見つけてから、数メートル先で立ち止まっている。