「ちゃんと、言って来なくちゃ。分かんないでしょ」

「……うん」

「冬海が居るからって言ってきて。ちゃんと」

 冬海が居るから、ってか。自分で言うかねこのナルシスト。

「うん。分かった」

 去り際の中尾先輩の表情を思い出す。あれはちゃんと話さないと分かってくれないんじゃないかって感じがする。

「……ちゃんと言って、分かって貰う」

 分かってもらわなくちゃいけないんだから。あたしには冬海が。
 中尾先輩が先だったとか、冬海が後だったとか関係なくて、あたしは冬海が好きで、彼もあたしのそばに居てくれる。それが事実なんだから。分かって貰うしかない。

「ていうかセンパイ」

 呼ばれて顔を上げると、冬海は窓の外を見ていた。頬杖の姿勢は変わらない。

「そういうの事後報告ってだめだよ。もっと早く言ってくれればいいのに」

「……ごめん」

 冬海は口を尖らせて、本当はもっと言いたいけどっていう顔をしている。梓と美由樹にも言われたこと。そうだね、2人のことは胸に温めておかないで冬海には言わないとね。

「なんていうか、こじれたら俺も話に行くから」

 椅子から立ち上り、鞄に手をかけて冬海が微笑んだ。なんでそんなに冷静に、大人びているの。

「……うん」

 自分だけで話そうと決めていた。冬海を呼ぶなんてことはない。あれ、これって事後報告に繋がるかな? さっき冬海には言わないとなって決めたはずだけど。

「帰るか」

 促されてあたしも立ち上がる。

 そうだな、あたし1人でちゃんと中尾先輩に話すよ。分かって貰うように話して、すぐ冬海に言うよ。どうだったかって。ちゃんと、2人のことだからね。

 駅までの道はすっかり暗くなっていて、相当長い時間あたし達は図書室に居たことになる。「わぁけっこう暗い」って冬海が言ったことで気付いた。またお母さんに遅くなった言い訳をしないといけない。今日は図書室じゃなくて生徒会にしようか。中尾先輩と気まずいことになってるけど。

 冬海の後ろを歩いた。暗いこともあったからか、あたしは急に不安になって、冬海の背中をじっと見つめた。そして、空いている手をぐっと掴んだ。温かい、手。冬海は何も言わずに、きゅっと握り返してきた。こんなにそばにいて触れているのに、不安がる必要なんか無いのにね。

「……泣いてんの?」

 暗いからあたしの顔なんか分からないでしょ? おかしな冬海。泣いてなんかいないよ。

 冬海の手があったかくて、心が溢れて出てきただけだよ。
 あたしはもう一度、冬海の手をぐっと握った。