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「センパイの知り合い……っていうか生徒会だよね、さっきの」
図書室の、変な雰囲気の中。中尾先輩に冬海とキスをしているところを見られたあと。頭ポリポリな空気が流れたあと、そう冬海に言われた。
「うん、あのね……」
あたしは、黙っているわけにもいかず、中尾先輩のことと告白されていたことを話した。冬海だっておかしいって分かってるから。黙っていたわけじゃなく、正直な話、冬海と居る時は忘れていたというか……。
「卒業まで、ね」
頬杖の先の、動く人差し指で頬をトントンとしながら冬海が言った。何を考えてる? どう思った?
「うん」
中尾先輩が出ていったあとは、図書室には誰も入ってこなかった。人気無いのかなぁここは。楽しいのに。……って、そんな事を言っている場合ではなかった。
「で? センパイどうすんの?」
どうすん「の?」でまた来たよ首傾げ。その、人形っていうか一歩間違えばCGみたいな顔でされると、本当にもう。
「どうすんのって」
「卒業まで考えて、ほんで?」
「どうすんのって事ないよ、冬海くん居るし。先輩とは……中尾先輩とはつき合えないよ」
当たり前だ。冬海との出逢いの先に今があるとはあの時思わなかったし、中尾先輩の事だってきちんと考えるつもりだった。
「卒業までってさ……あたしは」
答えというか言い訳というか、言い淀んでいるあたしを冬海はじっと見ている。いつもの頬杖で。
「……じゃあ、そう言ってくればいいよ。ちゃんと」
段々暗くなっていく窓からの光を薄く浴びて、冬海が言う。とても大人びていて、あたしのほうが年上なのにまるで逆みたい。見たこともないような顔をしている、と思った。



