月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

「俺がここに居るの知ってたみたいよ。昼休みから居たからなぁ」

 よくもまぁ職員室とかに通報されませんでしたね。サボってるのバレバレなのに。もっと見つからない場所で寝てればいいのに。本棚の陰とか。……本棚の影?

「そ、そっか……」

「なんも無いって、心配しなくても」

 そういえば、あたしが冬海を見つけた時も寝てたね。冬に、外で。寝る子は育つか。その割に身長は高くないけど。
 冬海は立ち上がって長机をぐるっと回って、あたしの向かいに座る。初めてここで会った時みたいに。ドキリとした。

「心配っていうか……別に何も思ってないけど」

 心配しなくてもって。そういう風に言って、あたしを試すみたいに。


「心配したでしょ?」

「……しないよ」

 心配って、浮気とか? 何を言ってるの。

「してるよ。女子に告白されてって」

 向かいに座って、頬杖であたしをじっと見る。よく冬海はこうやってあたしを見る。なんだか奥底まで見に来るみたいに。

「不安だって、目が言ってる」

 また。そういう事を言って、あたしを取り込むの。じっと見つめられて、動けなくなる。言葉さえ出せなくなる。

「言ってな……」

 誰も居ない図書室。あたし達2人以外には。静かで、空気がゆらゆら光に揺れていて、ここだけの四角い空間みたいに。まるで空中にでも浮いているような錯覚。