月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 図書室の前まで来ると、息を吸い込む。古い引き戸を開けようと手をかけた瞬間、ガラッ! と勢いよく開いた。

「わ!」

「あ、ごめんなさい!」

 女子生徒だった。ビックリした。「あ、いえ……」そう答えると、その子はちょっと頭を下げてバタバタと走って行ってしまった。肩までの髪をふわふわさせて。派手さは無く、パッチリした目の印象的な子だった。

「なんだ……」

 掃除か委員会の生徒だろうか。まぁ、ちょっと早めに来ちゃったかもしれない。あらためて入口を開けて中に入ると、誰も居ないような……。ぐるりと見回してみたけど、誰も見当たらなかった。忘れ物でも取りに来てたのかな。

 本棚がぞろぞろと並ぶスペースがあって、窓側に木製の長机が並んでいる。窓から薄い光が差し込んで居て、独特の雰囲気。あたしは図書室のその雰囲気が好きだ。

 一番奥の、窓際の席に鞄をおろし、中からペンケースと教科書、ケータイを取り出して机の上に置いた。そして座る。特に勉強するつもりは無かったんだけど、なにか置いていないと落ち着かなかったから。さっき本でも読もうかなって思ったけど、中途半端になりそうだし。要するに何もしたくないだけだけど。

「……」

 入口越しに廊下を行く話し声とかがうっすら聞こえてくる。冬海はどれくらいで来るだろうか。こっちはもう来ていること、メールする必要は無いだろう。約束したんだから、放課後にここでって。