月光レプリカ -不完全な、ふたつの-


「晃! ご飯食べて! 電車間に合うの?」

「やばいから、ご飯いいや!」

「えー! 学校で何か買って食べるのよ!」

「あーはい! じゃあ行ってきます! 寝坊したよおお」

 駅まで全力疾走だ。そうすれば間に合う、たぶん。学校に間に合う電車が、この乗れるか乗れないかの電車で最後だ。いつもちょっと早いので行ってるから……。

 駅まで走りながら、冬海からの返事を待って寝てしまったことを思い出した。いまはケータイをチェックする暇なんか無いから、電車に乗ったらにしよう。もうちょっと速く走れたらいいのに。なんでこの速さでしか走れないんだ! ターボ付けたい!


 発車のベルが鳴ってる間にホームに入り、駆け込み乗車セーフ! これ、たまに「駆け込み乗車は危険なのでおやめください」ってアナウンスされるんだよね。怖いね、恥ずかしいし。でも危ないよねごめんなさい。とりあえず間に合った!

 駆け込みして、呼吸を整える。なんかちょっと注目を浴びてるような気がするけど。こういう時ってなんだかそう思ってしまう。

 通勤通学の人達がたくさん乗る車内。電車が線路を行く規則正しい音。座ってると眠くなってしまう音。いまは心音と合わさって、急き立てるような。

 鞄からケータイを取り出すと、開いてみる。特に着信は無かった。メールも無し。既読にしちゃってないかと受信ボックスも見てみたけど、無い。あたしが昨夜、冬海に送ったメールが最後だった。

「なんだ……」

 吐息だけで独り言を言う。冬海は昨日休んで、それはもしかして風邪なのかもしれない。まだちゃんと治ってなくて、今日も休むのかも。分かんないけど。

 とりあえず、この電車なら遅刻は免れる。ほっとして、どっと疲れた。

 今日は放課後になにも用事が無いから、すぐ帰ろう。帰ってまた冬海にメールしてみよう。あ、でも返事が来て本当に風邪で寝込んでたりしてたらお見舞いに行きたいから、行っても良いか聞くために駅で時間を潰そうか。もしくは図書室。