月光レプリカ -不完全な、ふたつの-



 ***



「おい幸田!」

「ぎゃあ」

 生徒会室から出て廊下を歩きだした途端、背後から大声が。

「ぎゃあってなんだよ」

「よ、吉永……」

「呼び捨て?」

「……せんせい」

 小説のページでいえばきっと紙の無駄遣いみたいな会話の余白がある。廊下でそんな会話をして、振り向いてビビった顔のあたしを見下ろしている吉永先生。ああそういえば、イメチェンしてナマハゲじゃなくなったんだっけ。でも声がデカイ。

「先生さぁ、そんな声で突然呼ばれたら彼女に嫌われちゃうよ?」

「あー言われんだよ、それ。はは」

 はは、じゃない。じゃあ直してください。

「もう奥さんですねそう言えば。シンコーン!」

「とんがりコーンみたいに言うな。いいだろ、羨ましいだろ」

 いい大人が、自分が新婚だからって高校生に向かって「羨ましいだろ」って。別に羨ましくはない。