冬海の笑顔を遮ったのは、あちらのホームに来た電車。冬海が乗る電車のほうが先に来た。彼は乗り込んですぐに窓まで来た。発車の合図でかすかに聞こえるドアが閉まる音。ガタン、と動き出す電車の窓から、冬海が手を振っている。ニコニコと笑って。あたしを見ながら、あんな笑顔をする人なんだ。
ずっと見ていたい。そう思いながら、冬海が乗る電車が遠ざかるのを見ていた。さっきの唇の感触が残っているから、そっと指で触ってみた。自分の指の感触。でもキスを思い出して顔から火が噴き出そうだった。
あとそのうち、お願いしてみよう。もう「センパイ」って呼ぶのやめてって。
家に帰り、夕食を食べて眠って、また朝が来れば冬海に会える。勇気を出して話しかけるとか、特別な約束をしなくても、会える。これが特別な事だって忘れるくらい。会うのが当たり前になる。
気持ちは言わないと伝わらない。忘れちゃいけないのに、ね。
冬海が言った。明日って。
眠って目が覚めれば明日がやってくる。そして冬海に会える。おはようって言う。こんな何気ないことが幸せだったなんて、友哉との時は知らなかった気持ち。
温かい気持ちを抱きしめてベッドに潜る。眠りにつく瞬間まで、冬海のことを思っていられるんだ。ぬくもりを忘れる前に、朝が来る。それを思って、眠りに落ちた。



