月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 おばあちゃんの事とか、おばあちゃんの好きな食べ物とか。冬海の好きな食べ物とかも。これからゆっくり知っていけば良い。

 友哉の時みたいになったらどうしようとか、考えるの止めよう。そんなの分からないんだから。冬海のことを好きで、冬海もあたしが好きで、そこから全てが始まるんだから。頭で考えたってダメだよね。

 まだ、心は震えているけど。その震えを隠していたい。分からないようにして、押し込めて鍵をかけてしまえば、自分でも気付かなくなるに違いない。きっとそうだ。

「あ、雨じゃね?」

 冬海が言った。その瞬間、あたしの頬にも水滴。「ほんとだー」「えー傘無いぞ」言いながら、駅のほうに走った。走ってる途中、結構な勢いで雨が降り出した。

「ええ! 家に着くころずぶ濡れじゃない?」

「マジかよ! センパイ大丈夫? やっぱ送るよ」

 制服の水滴を払いながら冬海が困り顔で言う。駅の影で、屋根があるところだった。ひとまず避難、といった感じ。一応家に帰らなくちゃいけないし、二人の時間って大事なんだから、邪魔すんじゃないわー! と空に悪態。

「大丈夫だって。あたしより冬海くんのほうが心配なんだけど」

「俺は男だから平気」

 どっちにしろ、二人とも帰る方向が全然違うので、こんな雨降ってきちゃたし、とりあえず帰るしかない。