月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

「あの」

 何を言おうか決めていないうちに口が勝手に。「あの」なんだよ。なんなの。
 足も勝手に動いたし、最近のあたしは脊髄反射で動いている。

「あの、あの」

「うん」

 階段を、冬海が降りてくる。
 ホラ、なんか喋れって脊髄反射。冬海が困ってる。
 酸素不足の金魚のようにパクパクしていると、「まもなく、電車が……」とアナウンスが響いた。

「あ、電車!」

 冬海の乗る電車が来ちゃう。

「ああ、いいや。次ので」

「え?」

「いいよ、なんか。いいや」

 サラリとした髪に手をやる。「なんかいいや」とまた言って、手を下ろす。ふっ息を吐く。


「ちょっと」

 言ったが早いか、冬海はあたしの腕を掴んで改札口へ歩き出した。

「え、ちょ」

「一本遅らせる」

 足がもつれそうだったけど、改札口を無事出た。
 もつれていたのは、驚いたからなのか、冬海に腕を掴まれていたからなのか、なんだかもうワケが分からなかった。