月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

 大きくも小さくもない街。電車の本数もそれなり。

 あたしも小さく手を振った。後ろの人の足を踏んでしまったので「ごめんなさい」と謝って、また視線を冬海へ戻した。

 その時に見た冬海の顔は笑顔ではなくなっていて、遠くを見ていて、下唇を少し噛んだ泣き出しそうな顔。
 あたしを見ているわけではなく、どこか遠くを見ている。

 どうしたの、なんでそんな顔をするの。

 まただ。また、そこだけ切り取ったみたいに。冬海の姿だけ。


「ドアが閉まります」


 その車内アナウンスが終わるか終わらないかのうちに、あたしは人をかき分けて、閉まりかけるドアを全力で通り抜けた。


 足が、勝手に。勝手に動いた。

 ガタンガタンと再び音をたてて、電車は走り出した。