月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

「秋田と」

「え?」

 ぼそっと冬海が言うのが聞こえた。

「夕陽の色。秋田とこっちじゃやっぱ違うなって」

 お父さんとお母さんと過ごした秋田を思いだしているんだろうか。長い睫毛が目に影を作って、なんだかとっても頼りなげに見えた。

 冬海の目には見えているんだろう、秋田の夕陽を、あたしも見てみたい。

 大通りに出ている。クラクションの音。

 あたし達の会話は、ポツリポツリで夕暮れに吸い込まれていく。何か話したい事があったはずなのに。


「センパイいっつも図書室で勉強してっぺ?」

 ドキドキするのは冬海の声になのか、なまりになのか。

「んー、テスト前とか……かなぁ」

 テスト前ならちゃんと勉強しに行ってる。今日はただボーっとしに行っただけだけど。

「今度、俺も図書室で勉強すっかなー」

「まぁ、静かだしね。いいかもよ」

「教えてね、ベンキョー」

 ああ、またそのキレイな笑顔で。