月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

「かわいそうだって思った? 別に俺、かわいそうじゃないよ」

「そういうんじゃないけど」


 体に当たる風は、湿っぽい。

「別にいいよ。もう慣れてるし。薄幸の美少女だし俺」

「び……それ違うじゃ……」

 途中まで言って冬海を見ると、笑っていた。

「センパイ、同情はいらねーって」

 その笑顔は、あたしの目を捉えていて、奧まで覗きこもうとするようだった。


「いい、ほんと慣れてるから」

 俺に同情してるだろ。かわいそうだって思っただろ。

 あたしの頭の奧で、そう声が聞こえる。


 あたしには両親がちゃんと居る。両親がこの世に居ない目の前の冬海を「かわいそうだ」って、思ってないと言えば嘘になる。でもそれは、あたしには両親が居るっていうところから来てる。それに気付いて自分がイヤになった。


 冬海は、笑顔を引っ込めて前を向き、ふぅっと息を吐いた。