月光レプリカ -不完全な、ふたつの-

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「そんなに走って来なくたって……」

「だだだって、待たす……からっ」

 呼吸が乱れてうまく喋れない。でも何気なく冬海は、苦笑いをしながらあたしの呼吸が整うまで、歩き出さないで待っていてくれている。

「ヘンなのー」

 ヘンなのは、冬海のせいだ。

 薄暗さは図書室にいた頃よりもずっと強くなって、夜の匂いがしてくる。

 今週、梅雨入りだ。そう天気予報で言っていたと、お父さんが教えてくれた。

 冬海の横顔が視界に入ったり消えたりしながら、並んで歩く。ふるえる足は、意外と頑張って普通に歩いてくれている。

 何か、喋らなくちゃ……。

「あ、冬海くんそういえば」

「なに?」

 糸口なんかはどうでもいい。あとはたぐり寄せて行けばいいの。

「夕方、駅のロータリーで見かけたの。手振ったんだけど」

「えー分かんなかった。視力は良い方だけど」

「車に乗って行っちゃって」

「あー……」

「お母さん……? なのかなーって」