「この野郎。向こうへ行け。

先輩、リュウ、周りに気をつけて。」



2人が話していると男が近づき、
いきなりナイフを向けたらしい。

2人の後ろを歩いていた2年生の石田と布施が気づき、

男に向ってラケットを振り回し… 

どちらかのラケットが男の手に当たったらしく
ナイフが飛ばされた。

その拍子に男は逃げ去ったが、
ナイフが落ちている。

リュウは一瞬カイルの言葉を思い出した。

アレは自分を狙った… 
そんな事を思い出していたが、

石田たちは想定外の言葉を掛けてきた。




「部長、のろのろ歩かないでくださいよ。
リュウはうちの大事な戦力だから怪我でもされたら大変だ。」



そう言いながら
石田は汗の染み付いたタオルを出して、
ナイフを拾っている。



「そうですよ。マネージャーの加藤の話を聞いていなかったのですか。

ここ数年、大きな大会前になると優良選手が狙われる事件があるんですよ。

絶対に負けたくないチームが卑怯にも誰かを雇って、襲わせ、

試合に出られないような怪我をさせるってことがあるから気をつけるようにって。

おい、石田、これは先生にも言っておいた方が良いな。

戻ろう。
部長、部長とリュウはうちの有力選手だからくれぐれも気をつけてくださいよ。」



石田と布施は曙高校テニス部の英雄を守っている

騎士にでもなったような口ぶり・態度で

校門の方へと戻って行った。



「本当にそんなことがあるんですか。」



リュウは初めて聞くことだった。

もっとも、今までそんな話があっても、
リュウの耳に入っていなかったのだろう。



「ああ、昨年、そんなことがあったなあ。

もっとも俺たちはそんなに強いチームではなかったから蚊帳の外だった。

まあ、最近はすぐスポーツ誌が取り上げて騒ぐから加熱するんだろう。

来月の都大会はすごいぞ。」