今まで一度も思い出さなかった山崎の名前を耳にして、
リュウはおかしな気持になった。

そうか、明日学校へ行けば… 

いきなり、あいつは【いなずま杯】で優勝したんだ、

と言う事が思い浮かんだ。



「ああ、あいつは自分のことで精一杯らしいが、
お前のことを知って… 

それに出場する以上は、ってとこだな。

まあ、あいつにしたら
足を引っ張るのはリュウではなくて俺だと思っているんじゃあないか。」


「そうなんですか。」


「ばか。そんな事、あるわけは無いだろ。

だけどまあ、あいつの好意、嬉しかったさ。」


「うん。あのね、先輩、
僕も国体に出なくてはならなくなったから頑張ります。」


「そんな事、当たり前じゃあないか。」


「そうだけど… 代表に選ばれれば、
父さんとカイルが応援に来てくれるって。」


「カイル… 足、大丈夫なのか。」



カイルとの事は簡単に水嶋には話していた。



「今頃はリハビリを頑張っていると思う。

でも、僕は嬉しいんだ。
やっと僕にも家族が3人になった。」


「しかし、あの義母さんが、
親父さんとリュウを狙って再婚したとはなあ… 」


「うん。だから僕は初めから好きにはなれなかった。」


「だけど、最後は、本当に親父さんやお前を愛してしまったんだろ。

俺… 何となく感じたぞ。」


「うん。父さんはそう言っていた。

だから、うちのお墓の隣に小さいお墓を作るんだって。
あの3人の。

戸籍も何もわからない存在だけど、
父さんは特にあの子供たちが不憫だった、と言っている。

僕は嫌いだったけど、
僕は父さんの気持を尊重する。

次の僕の誕生日、皆でボストンへ行く。

僕はそれがとても嬉しい。」



リュウは水嶋が見たこともないような幸せそうな顔をしている。