「…本当に勝手。
自分で選んだ道を、あたしたちが誇りに思うお母さんを、

…お母さん自身がそんな風に卑下するなんて」




そっと顔を上げたお母さんの眼をあたしは真っ直ぐ見た。


お母さんの眼は、少し濡れていた。




ふっ、とあたしは微笑みかけた。


「あたし、さみしくなったら、いつもお父さんとお母さんのテープ聴いてるんだ。」


と言いうのも、プロのプレイヤーみたいな立派なものじゃない。


二人の大学時代のコンクールの演奏や二人のデュエットを友人が録音してくれて、それをテープに焼いただけというもの。



それでも、それは美保にとってかけがえのない、大切な宝物だった。


「ほんとうに、素敵だなあって思いながら聴いてる。
聴いたら元気になれる気がするんだよ。」



あたしはお母さんを抱き締めた。



いつのまにか、あたしとお母さんは背が変わらなくなっていた。

いつのまにか、あたしの仕草はお母さんに似てきた。


いつのまにか、お母さんは弱くなっていた。



…いつのまにか、あたしがお母さんを支える刻(とき)が来たのだろう。



「大好きだから。

音楽をやってるお母さんとお父さんが。

だから、心置きなく頑張ってよね。」