「(……寂しい、なんて思うのは…)」


「(……全く、どうかしてますわ…)」




溜息を吐くだけの毎日が、始まった。


繭と喧嘩をすることもなくなり、寧ろ顔を見ると泣きたくなった。


…なんなんですの、これは…。


答えを一向に見つけることのできない私に、春姫―――あなたが光を射してくれたんです。


春姫は私たちの間を行ったり来たりしていたから、時折心配してくれた。




『華苗さん。どうして繭さんを避けてらっしゃるの?繭さんがいなくて、寂しいのでしょう?』




私はその問い掛けに、言葉を詰まらせた。


……答えに、気付かされてしまったから。




「………一緒にいる理由が…」


『どうして理由が?……そうだ、私、記憶喪失になったんです』


「…はい?あの、春姫さん…?」




なにを言い出すの?


春姫の背後に繭がいるのに気付き、慌てて言葉を飲み下した。




『…校舎の内部のことだけ、すっかり抜け落ちてしまったのです。道案内、お二人に頼んでよろしいですか?』




ハッと息を呑んで、繭の顔を見た。


彼女はおかしそうに眉を下げて、私に笑いかけていた。




「………もちろんですわ、繭も良いですか?」


「……ええ。春姫さんの頼みですもの、断れませんわ」




たとえそれが、陳腐な会話だったとしても。


たとえそれが、稚拙な作戦だったとしても。







私たちが頷くには十分すぎる―――素敵な、嘘だったんです。