3時間目、物理の授業。



俺は机の上に頬杖をつきながら、黒板の文字をノートに写していた。



ふと視線を感じて隣を見ると、吉野が俺のほうを見つめていた。



「ん?どした?」



俺が聞くと、吉野はニコッと笑い、人差し指で窓の外を差した。



俺は窓の外を見るけど、街の景色と、青空に白い雲が浮かんでいるだけ。



俺が首を傾げて吉野のほうを向くと、



話し声が先生にバレないよう、彼女は俺の耳元に顔を近づけ、小さな声で言った。



「ハートの形だよ?雲」



俺はもう一度、窓の外を見た。



「可愛くない?授業中じゃなきゃ、ケータイで写真撮れたのになっ。残念っ」



そう言って吉野は、少し哀しげな表情でため息をつく。



「授業が終わったら撮れば?」



「その頃には雲がハートじゃなくなってるかも……。橘くん、知らないの?」



「なにを?」



「ハートの雲を写真に撮って待ち受けにしたら……好きな人と両想いになれるって……」