父親と会話をすることもないまま、タクシーが停まったのは閑静な住宅地の中だった。



タクシーを降りたあたしは、父親の少し後ろをついていく。



綺麗で大きな一軒家の前で父親は立ち止まった。



え……?ここなの……?



想像していたのは、もっと小さな家。



だって父親がひとりで暮らすのに、そんなに大きな家だと思うはずがない。



父親はドア横のインターホンを押した。



――ガチャ……。



ドアが開いて、中から出てきたのは髪をひとつに結んだエプロン姿の女性。



この女の人……誰……?



「パパーーーっ」



家の中から走ってきて、父親の膝に抱きついたのは3、4歳くらいのまだ幼い小さな女の子。



いま……この子、“パパ”って。



そう言った……?



父親は女の子を空高く抱きあげた。



「ただいまー」



「おかえりーパパぁ」



何も知らなかった……。



だって……おばさんも、あたしに何も言わなかったし。



ただ、お母さんのお葬式のあと、父親があたしを引き取るからって……。



父親と一緒に暮らせとしか言われなかった。



再婚して、子供までいたなんて……。



だからこんなに大きくて綺麗な家に住んでて……。



あたし……今日から、この家で暮らすの……?



「凜のこと頼むよ」



そう女性に言った父親は、女の子を抱いたまま先に家の中へと入っていく。



あたしが外で立ったままその場から動けずにいると、



その女性はあたしの前に立ちニコッと笑って言った。