・・友紀Side・・
私は生まれついてから一度も喜びを味わったことが無い。
小学校ではルックスが問題のイジメに遭い、中学では悪い教師のえこ贔屓に悩まされ、必死に勉強して入ろうとした志望校も、教師に嫌われて内申を大きく下げられたため不合格になり、高校を卒業して、親元が嫌になって1人暮らしを始めた。
その理由は、親から見捨てられた事。
有能だと言う兄ばかりを気にして、こちらなど見てくれたことなど無い。
だから、私は親から離れたところに住んでいる。
今年、あの両親が事故で死んだと言う事は、幸運でもないが不運でもない。
安いアパートに住み、アルバイトしながら生活しているが、未だに何一つ幸運が訪れたことは無い。
―私・・・生まれてきて良かったのかな。
人はどんなに不運な人生を歩んでも、私のように幸運が1つもなかったなどという人間はいないだろう。
仕事も、失敗してはいないが成功するチャンスも無い。
何の幸運も得られない自分が、嫌で嫌で仕方なかった。
そんな中、幸さんと出会ったのは、1ヶ月前の夜の公園だ。
カフェの仕事で疲れ果てた私は、公園のベンチに座り込んだ。
今日もこれと言って何も無い一日。
そのループにも疲れが溜まっていたらしく、ぐったりと背を曲げる。
「あのケー小面白かったよねー」
「甘甘だったー」
ケータイ小説の事を言っているのかと私は理解した。
私も高校でよく見ていたが、最近は見ていない。
あのような幸せな物語が、私にも訪れればいいのに。
深く息を吐いて目をつむると、誰かの影が私を覆った。
「何してる。風邪をひくぞ。」


