お母さんの言うあの子とは勿論蒼真の事だ。


「そんなことないわよ」

「え~」

「ほら、早く行かないと」


遅刻しちゃうよ、と言えば、仕方ないなぁとお母さんは鞄を持った。


「じゃ、行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」


手を振ってお母さんを見送る。
パタンと閉められたドアの鍵をしっかりと閉め、チェーンもしておく。
再確認もして、部屋に戻ろうと踵を返したあたしをジッと茉里が見ていた。


一瞬、目があったけれど、あたしの方から反らして横を通りすぎた。
すれ違うだけでも緊張する。
胃がキリキリと締め付けられるようだ。


「………最近、調子いーんだ?」

「……」


ピタリと足が勝手に止まる。


「いつもは何で調子悪いんだろうね?」


肩越しに振り替えると同じ顔がイヤミたらしく微笑んでいる。