ジキルハイド症候群




ハッと口を押さえて亜理砂は声のボリュームを落とした。


「ほ、本当に?」

「風の噂では」

「そ、うなんだ……」


あからさまに落ち込む亜理砂に、あたしは、苦笑する。
頑張れと肩を叩くと、亜理砂はうん、と小さく頷いた。


「………あれだけしてくれたものね」

「……うん」


ギュッと太ももの上で握りこぶしをしながら亜理砂は廉をチラッと見た。
教科書を開きながら廉は音楽を聞いているようだ。


「今日はね、何もなかったんだ」


画鋲とか悪戯とか暴言とか全くなかった。教室にはいれば皆怯えている目で見ていたけれどなにもしてこない。


「………よかったわ」

「皆さんのお陰です」

「あたしは、なにもしてないわ」


弁当を片付けながらあたしは言った。