すきだ、好きだ。いくつも繰り返して、ヒロイチの顔は崩れていく。


「アカリ、」
「………」
「アカリ、おれは」
「ヒロイチ」


ヒロイチの言葉を制止した。

ヒロイチの声は、痛くて痛くて、千切れてしまいそうな声で。

これ以上聞いてしまったら、うまく笑えなくなってしまうと思ったから。


「……ヒロイチ、おやすみ」


おやすみ。そう言って穏やかに笑った。

右手を伸ばして、ヒロイチの視界を、そっと奪う。

触れる、睫毛の感触。

わたしの手のひらの中で、ヒロイチはやっと瞳を閉じた。

…その頬には、涙が溢れていた。


「…おやすみ」


おやすみ。おやすみ。おやすみなさい。

この夢から覚めたら、もう泣かなくていい。

わたしを過去にする準備を、始めてくれればいい。

大丈夫。ヒロイチは大丈夫。わたしのことを忘れて幸せになってね、なんて綺麗な台詞は言わない。ずっと覚えていて。

それで、ゆっくり、優しい思い出にして。ヒロイチの中の肥用にして。

ヒロイチなら、それができるから。


「…おやすみ」


最期に触れたヒロイチの頬は、とてもとても冷たかった。

どうしてだろう。

ヒロイチが眠れますように。長い夢から目を覚まして、わたしが居ない現実の世界で笑えますように。

たしかにそう思うのに、どうして。


「………っ、」


わたしの頬も、冷たい。