蒸し暑さを残した祭りの夜に、言葉が溶ける。
俺たちを包む周りの空間だけ、静けさを含んで。
「…ヒロイチ」
アカリは、ふわっとした瞳で俺をとらえた。
それはまるで、俺の全部を。
格好悪いところも情けないところも子供っぽいところも全部、包み込んでいるような瞳。
─ヒロイチ、あたしね。久しぶりに間近で聞いたアカリの声が、耳の奥へと滑り込んでいく。
「おじーちゃんとおばーちゃんになっても、ずうっと仲良しなのが夢なの」
「…うん」
「手をつないで散歩したり、縁側で並んで、星を見たり」
「…うん」
「…ねぇ、そういうの、ヒロイチはしてくれる?」
ざああ、と風が吹いた。
アカリの髪が舞った。俺はそのとき、なぜかものすごく泣きそうになった。
「──うん」
アカリにそうっと歩み寄る。一歩、一歩。伸ばした手。
包むように、全部覆うように、アカリを抱きしめていた。
ただ愛しくて仕方がなかった。
─うん。たった二文字の、発したばかりのその言葉の味を忘れないように、強く噛みしめる。
うん。うん、ずっと仲のいい関係でいよう。なにが起こったって、二人で笑い飛ばせるくらいの。
手をつないで散歩しよう。
互いに寄りかかって、一緒に星を見よう。
ずっと好きでいよう。
好きだと伝えよう。
アカリ。お前がしわしわのおばーちゃんになっても、
腰曲がっても、声がしゃがれても。たとえ、
たとえ俺を忘れる日がこようとも…ずっと、ずうっと。
【end.】



