「…明加なんだけどさ」
スーパーボールすくい勝負しようぜ!なんて、全員で水槽の回りを陣取っていたときだった。
ふいに耳打ちされた、アカリの名字。
びくっと身体が反応して、紙をジャブリと水槽の中につけてしまった。
「うわっ」
「はは、動揺しすぎだから」
「……何だよ」
「誘っといてって頼んどいたんだよ、今日。でも今ちょうど、ばーちゃんち帰ってんだって」
残念だったな、という言葉が、ゆっくりと内に染み込んでいく。
まるで、すっかり水の染み込んだ紙の表面と同じように。その紙で、半ばやけくそになってスーパーボールを追いかける。
ギリギリ掬い取れた緑のボールは、紙を大きくへこませていた。
「…別に…俺は───」
「嘘つけ」
次に追う、赤いボール。
その大きさそっくりそのまま、紙が破れる。真ん中がぽっかり空く。
ぽっかりと空いてしまった、俺の、全部の、ど真ん中の。
「好きなくせに」
からかいと真剣さ。
同時に含まれた友人の声に、耳の奥がじんと痛んだ。
この時になって、夏休みももう終わる時になって、俺は気づいたんだ。
俺の頭ん中には常にアカリがいて、
夏休みに行ったいろんな場所。バーベキューをした渓流、雲のないむせかえる正午の空気、日陰になった駐輪場、人の多いプール、オリオンの夜空。どんな場所、どんな時だって。
俺はもうずっと、アカリのことばかり考えていたんだ。



