「私は家の中で幽霊を見たことないからね」

 先に予防線を張られた感じがして、おれは苦笑いで応じる。


 角を曲がった。


 閑静な住宅街の中で蜜姫家を見つけることは、それほど困難なことではなかった。


 重量感のある歪な石を積み重ねた塀が、要塞のように敷地を確保している。


 おれの身長より高い塀から正三角形を頂点とした西洋風の屋根が確認できた。


 植物をモチーフにした鉄鋳物の門扉からゼロの家の全体が見えたが、庭の手入れを怠っているのか蔦に絡まり、デザイン的にもそれほど新しい建物とは思えなかった。