追いつけた! と思ったが、マッチ棒はおれの指の先を僅かに掠め、ガソリンで濡れた床に落ちる。 あっという間に炎が走った。 おれは間一髪で体を転がして炎から逃れたつもりだったが、着ていたジャージの裾の部分に火が移り、手で払ってなんとか消す。 「滑稽だわ」 倉吉はお金持ちの貴婦人のように手の甲を口に当て、わざと上品な笑い方をした。 「ゴホゴホ……」 燃えた床材からモクモクと黒い煙が立ち昇り、それを吸ってしまったおれは咳き込む。