「キスの刺激が強すぎたのかしら?」

 倉吉はゼロの顔を舐め回すように見てから首を傾げたあと、チラリと左手首の腕時計を確認して「あら、もう時間なのね」と時間に追われている素振りを見せた。


「今度こそ本当にお別れよ、田中君」

 倉吉は自分の手を汚したくないという理念を捨て、腕を水平に伸ばし、火のついたマッチ棒を突き出す。


 倉吉は白い歯を見せながらマッチ棒を指から離した。


 おれは無理だとわかっていても、重力に逆らうことなく落ちるマッチ棒に飛びつく。